物忘れ

「最近忘れっぽい」

「性格が変わったと言われる」

「時間や場所、人の名前がすぐにわからない」

「道に迷うようになった」

物忘れは誰もが経験する一般的な現象ですが、その程度や頻度によっては認知症などの深刻な症状の兆候である可能性があります。

一般的な物忘れと記憶障害の違い

一般的な物忘れは、「買い物に来たけど買うものを思い出せない」のように自覚があります。一方、記憶障害の場合は、過去の体験や出来事の記憶自体が抜け落ちており、本人に「忘れている」という自覚がないのが特徴的です。

記憶障害の種類

記憶障害は主に5つに分類されます:

  1. 短期記憶障害: 最近の出来事が記憶できなくなります
  2. 長期記憶障害: 長期にわたる記憶が思い出せなくなります
  3. エピソード記憶障害: 体験した出来事を思い出せません
  4. 手続き記憶障害: 日常作業や仕事の作業を忘れてしまいます
  5. 意味記憶の障害: 言葉の意味を記憶することができません

認知症と物忘れ

認知症による物忘れの特徴は、出来事や体験そのものを忘れてしまうことです。

また、記憶力だけでなく、理解や思考・学習・計算・判断・言語などの認知機能が低下します。

物忘れの原因

物忘れの原因は主に3つに分けられます

  1. 加齢による変化
  2. ストレスや不安
  3. 薬の副作用

物忘れと認知症の関係

65歳以上の高齢者の約15%が認知症で、認知症と軽度認知障害を併せると30%近くに達します。85~89歳になると6割以上、90歳以上では8割以上の人が認知症または軽度認知障害になっています。


認知症の診断のためには、以下のような検査が行われます:

1. 面談・問診

医師が患者本人や家族から現在の症状やこれまでの経過について詳しく聞き取ります。日常生活における支障や環境の変化などを確認し、診察を行います。

2. 身体検査

一般的な診察と同様に身体検査を行います。これには以下が含まれます:

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 心電図検査
  • レントゲン検査

これらの検査は、他の病気との併発がないかを確認し、今後の医療・介護方針を決定するために重要です。

3. 神経心理学検査

認知症を診断するための質問や作業を行う検査です。代表的なものには:

  • HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
  • MMSE(ミニメンタルステート検査)

があります。これらの検査では、日付や現在地の確認、簡単な記憶力テストなどが行われます。

4. 脳画像検査

脳の状態を詳しく調べるために以下の検査が行われます:

  • MRIやCT:脳梗塞、脳出血、脳の萎縮、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などを調べます。
  • 脳血流SPECT:脳の部位ごとの血流を調べます。
  • MIBG心筋シンチグラフィーやドパミントランスポーターシンチグラフィー:レビー小体型認知症の診断に有用です。

5. その他の検査

  • 脳波検査:脳機能の状態とてんかん性異常の有無を調べます。
  • 脳脊髄液検査:アルツハイマー病の診断マーカー(アミロイドβ蛋白、タウ蛋白)を測定することができます。

これらの検査を総合的に評価し、認知症の有無や種類、程度を診断します。


認知症は単に”物忘れ”をするだけでは問題とならないこともありますが、認知症の中核症状(”物忘れ”)に付随して、周辺症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という、二次的に起こる症状がみられることが少なくありません。これらの症状は、本人の性格、生活環境、人間関係など複数の要因が絡み合って発生し、個人差が大きいのが特徴です。

主な周辺症状

  1. 不安・抑うつ:認知機能の低下により、日常生活に支障が出ることで不安を感じたり、気分が落ち込んだりします。
  2. 徘徊:記憶障害や見当識障害により、目的もなく歩き回る行動が見られます。
  3. 幻覚・錯覚:実在しないものを見たり聞いたりする幻覚や、実在するものを誤って認識する錯覚が起こります。
  4. 暴言・暴力:思うように言葉を伝えられないもどかしさや不安から、怒りっぽくなったり暴れたりすることがあります。
  5. 睡眠障害:体内時計の調節がうまくいかず、不眠や昼夜逆転といった症状が現れます。
  6. 物盗られ妄想・せん妄:記憶障害により、自分の物を置き忘れたことを忘れ、誰かに盗まれたと思い込む妄想や、現実を正しく認識できない状態が起こります。
  7. 介護拒否:認知機能の低下により、介護の必要性を理解できなかったり、環境の変化に適応できなかったりすることで、介護を拒否する行動が見られます。

周辺症状の出現時期

周辺症状の出現には時期的な傾向があります

  • 初期:抑うつや不安感、物取られ妄想
  • 中期:幻覚妄想や徘徊
  • 末期:異食、うなり声

周辺症状への対応

周辺症状は、認知症の人の看護・介護において大きな課題となります。国際老年精神医学会は、対処の困難さに基づいて周辺症状を分類しています

  1. 対処が難しい症状:妄想、不眠、幻覚、不安、抑うつ、身体的攻撃性、徘徊、不穏
  2. やや対処に悩まされる症状:誤認、焦燥、社会通念上の不適当な行動と性的脱抑制、部屋の中を行ったり来たりする、わめき声

周辺症状の緩和には、薬物療法や非薬物療法が用いられます。専門医に相談し、個々の状況に応じた適切な対応を行うことが重要です。